苦労してなんとか実現させた研究留学。しかし留学先のボスが必ずしも後進の育成に長けているとは限りません。独立したばかりのPIのため経験不足で指導の仕方がわからなかったり、反対にキャリアの終盤で教育にそれほど興味を持っていなかったり…。
そんな良くない研究室に当たってしまった場合は大変です。うまく研究が進んでいる場合は大きな問題にはならない場合もありますが、研究が詰まってしまった時は悲惨です。そんな時はボス以外の周囲の助けを借りるか、でなければ自分でなんとかするしかありません。
この記事では3年間アメリカに研究留学していた海凪がこれから研究留学する方や留学中に研究に行き詰まっている方に向けて「研究留学の成功」に間違いなく効く書籍を5冊ご紹介します!
わざわざ手間とお金をかけて研究留学するわけですから、結果を出したいですよね!
1. 研究の育て方
秀逸なタイトルです。この表紙を見ただけで惹かれてしまう方も多いのではないでしょうか?
言語化しにくい研究の計画・ブラッシュアップの方法をわかりやすく解説
論文の書き方、発表の仕方については数多の書籍がありますが、何をどうやって研究するか、その方法をどうやって良い方法にするかを解説した参考書は限られています。
いわゆる「0から1」の部分が最も頭を悩ませる部分です。
良いアイディアと研究計画さえ決まれば留学助成金や研究費の申請も行えますし、その後の研究も時間や費用を無駄にする可能性を減らせます。
実験しながら研究計画を考えるのも重要な一つの方法です。いくら良い研究計画があってもPreliminary data(プレ実験のデータ)がなければ研究申請書に説得力が出てきません。
ただし計画のない実験は余計な寄り道や急な計画の変更でそれまでの実験やデータを無駄にする可能性を大きくします。またモチベーションの面でもそのような進め方はお勧めできません(経験あり)。
この本では良い研究の発案だけでなく、それをどのように膨らませ、育て、そしてブラッシュアップさせていく方法を段階に分けて1つ1つ解説を加えていきます。
研究プロセスの「見える化」ができるとやる気効率も断然アップします!
第1部の総論の章立ては以下のようになります。
- 研究のゴールと研究プロセス
- よい研究の条件
- 研究の種類の選択
- 論文の種類
そして第2部「構想・デザイン・計画立案」が本書籍のメインです。
「採択される研究助成申請書の書き方」まで解説されており読み応え十分です。
イメージのつきにくい研究の構築の仕方について幅広く解説してくれています。
後半はアウトプットの解説、コラムも読み応えあり
第3部は「研究の実施・論文執筆・発表」でアウトプットの解説です。
この部分に関してはこの書籍の記述が悪いわけではないですが、他にもそこだけにフォーカスを当てた書籍が多数ありますので分量の点で後塵を拝します。
第4部「研究に関わるQ & A」とコラムは著者の考え方がよくわかり興味深いです。
この本を一冊あらかじめ読んでおくことで多くのトラブルや研究の停滞を避けられるでしょう。
本記事の中でも特にオススメの一冊です!
2. なぜあなたのあなたの研究は進まないのか?
この本も魅力的なタイトルです。常々頭にこの疑問がある方は多いはずです!
研究につまった時に読むべき本
研究が進まない、うまくいかないというのは「あるある」を超えて研究の日常です。
しかしその時に「何が原因で」「何をすれば解決するのか」がわかっていないと速やかな解決は望めません。間違った方向にいくら努力しても解決には至らないものです。
海凪にもそういった経験が多数あります…。
この本では研究が進まないという1つの課題について研究の初め(計画の立案)から終わり(論文などのアプトプット)まで、個人の体調管理やマインドから同僚・ネットワークの観点まで様々な角度からアプローチしています。
1つ1つの内容やそのエッセンスは他の研究関連本でも時々見かけるようなものも多いですが、重要なことは「研究が進まない」事に対するアプローチとしてそれらをわかりやすく再構築している点です。この本の真価は実際に研究につまった時に発揮されるでしょう。
「いまどき」の構成とわかりやすさ
この本は上述のように多数の観点からアプローチしています。計40の質問(自問自答)を章立てて分類し、その問いに関して解説を加えるスタイルで構成されています。
その1つ1つは非常にコンパクトで、読者に気づきを与えるスタイルです。時々使われるイラストも理解しやすさの助けになっています。
情報量としてはその分削ぎ落とされていますが、しかしそれはこの本の短所ではなく長所です。
もし問題点がわかればその問題点にアプローチする方法はその他の書籍やネットでいくらでも見つけられるので、まずは「問題点」と大まかな「方向性」が分かれば解決はすぐそこだからです。
3. ポスドクの流儀
「ドキッ!」とするタイトルですね…。
ポスドクがアカデミアの世界で生き残るためにはどうすべきかを具体的に解説
この書籍ははポスドクがアカデミアの世界でどうふるまい、どう次のキャリアにつなげて研究者としての成功をつかんでいくかに焦点を当てて書かれています。PIとの関係、論文、人脈、生産性、倫理、フェローシップ、履歴書、面接などなど…。情報はかなり具体的でとるべき行動がチェックリストになっており、非常にわかりやすく実行しやすい行動がたくさん書かれています。
この通り実行していけばあなたは理想のポスドクにかなり近づけるでしょう。仮に全ての実行は難しくても役に立つ視点はたくさん得られるはずです。
注意点
著者はイギリス人(和訳されていますが)であり、背景や具体的な情報の一部はイギリスに特化していることが挙げられます。イギリスに留学する方はそのまま当てはめることができますが他の国に留学されている方はその点は留意して読んで必要な情報は他の情報源で確認すべきです。
基礎研究の世界でサバイブするための指南書であり実行のハードルは高い
基本的にこの書籍は「基礎研究の世界でどうふるまい、どうキャリアを作っていくか」なので特に「医師が一定期間研究留学して帰国する」場合にこの本に書かれていること全てを実行するのは相当にハードルが高い&やりすぎになってしまい本来の目的を果たせなくなる可能性があります。
例えばこの本ではポスドクとしての自分の役割や存在感、長期的なスキル獲得のために学生への対応、人脈の広げ方、研究室での自分の役割を確保するために雑用についても積極的にになっていくことなどが書かれています。
慣れない英語と慣れない研究で四苦八苦している方がに明らかに留学のメインでない部分を頑張りすぎるのは研究が進まなくなる恐れがあります。そのような方は全体の中で使えそうなエッセンスを吸収することに留めておいた方が無難でしょう。
4. 初めての研究生活マニュアル
「そもそもこんなこと真面目に考えたこともない!」…という方もいるのでは?
研究者の実務やマナーについて学びなおす
医学研究留学を目指す場合、日本の大学院に入って研究をした方がほとんどだと思います。その場合大学院生側が学費を払いつつ研究をすることになりますし、ほとんどの方が臨床との掛け持ちになっているため、研究が生活の全て、と言う人は少ないと思いますし、入る研究室によってはPhD単独の方がいない場合もあるでしょう。
そういった場合研究者としての振る舞い、というものを学ぶ期間は限られます。しかし留学で研究を続ける場合、そこには「プロフェッショナル」としての振る舞いをある程度求められます。特にキャリアをさらに留学先で積む場合には尚更です。
ページ数も少なく、イラストと文章のコンパクトさでさらっと短時間で読めます。これを機会に研究者としての振る舞いをおさらいしてみるのはいかがでしょうか?
とはいえ「はじめて」の「大学生」レベル
とはいえ、これは大学生に向けてはじめて研究室に入った人向けの書籍です。
メールは返信しよう!時間を守ろう!欠席の連絡をしよう!など、そもそも人として当たり前のことも書いてあります。
購入を検討される方はあらかじめ立ち読みやAmazonの紹介ページや試し読みなので内容を把握することをお勧めいたします。
とは言っても良い年してできていない人もそこそこいたりして…。
5. 研究者としてうまくやっていくには
うまくやっていきたいです…
研究者としてのキャリアの泳ぎ方
4番目に紹介した「初めての研究生活マニュアル」は大学生向けでしたが、この書籍は大学院生〜独立した若手研究者向けに書かれた本です。先程のものとは違い新書でイラストはありません。また内容もよりプロフェッショナルに寄せた内容となっており、より「うまくやっていく」ことに焦点を当てています。
「うまくやっていく」という日本語はともすれば「上司に取り入る」ニュアンスが出てしまいますが、そういうことではなく「社会性をもって上手にやっていきましょう」くらいのニュアンスです。
研究のハウツーからマインドセットまで、各キャリアの段階に応じた視点で職業としての研究者の振る舞い方について記述されています。
著者は一人であることの利点と欠点
本書は全て文字であるにも関わらず非常に読みやすく、内容が一貫してまとまっています。
文章もとても好感の持てる書き方をしています。
その一方であくまでこれは「一人の研究者が感じたこと・考えたこと」にすぎません。
研究分野でも様々違いがあるでしょうし、この方の考えた「正解」が他の人に当てはまるとは限りません。そう言った意味では別記事「研究留学したくなる&留学中のモチベーションがアップするお勧め書籍5選」でご紹介した書籍「海外で研究者になる 就活と仕事事情」がうまくこの本を補完してくれるかもしれません。ご興味を持たれた方はそちらもお勧めいたします。
まとめ:「研究者であること」にアメリカと日本の違いはそれほどない
ここまで海凪自身が読破した「研究を成功させるため」の本を5冊ご紹介いたしました。
たった3年ですがアメリカで研究生活をして感じたことの1つは「研究をすることにアメリカと日本で大きな違いはない」というものです。
ここに列挙したのも日本のものばかりです。
実際英語で書かれた研究の「ハウツー本」はたくさんあります。
しかし数点読んでみて思ったことは日本の書籍の方がはるかに「読みやすさ」や「理解しやすさ」が考慮されています。イラストや図表の使い方や豊富さは日本の書籍が圧倒しています。
どうしても研究内容やソフトウェアなどに関しては日本語で出版されているものは古かったりそもそもカバーされていなかったりして英語で読まざるを得ませんが、上記でご紹介した内容は英語でわざわざ読む必要はないと海凪は考えます。(もちろん英語を勉強する目的で読むのは大いに「アリ」だと思います)
全てを読む必要はありませんし、相性もあると思います。
それでも研究留学や留学後の研究生活を考えている方は上記の本を何冊か読まれることをお勧めいたします。
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