アメリカポスドクの給料と金銭事情(妻・子ども2人と同居編)

留学検討中の方へ
海凪
海凪

医学研究留学におけるお金にまつわる情報は断片的に見つかりますが
具体的な全体像を描くのは難しいのではないでしょうか?

この記事では海凪の家族4人(夫婦・未就学児1人・乳児1人)で同居をしていた時の具体的な収入・支出をご紹介いたします。
結論は「ポスドクの給与ではアメリカの田舎であっても家族3人を養うのは厳しい」となります。
※実際の金額は人・事情・地域によって大きく異なります

ちなみに一人暮らし時の家計は以下の記事から↓

1. アメリカのポスドクの1か月の給料と福利厚生

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実はポスドクの給与はほとんど決まっています。

NIHから勧告が出ており、ほとんどの大学はそれに従っています(違反に対して罰則があるかどうかは知りません)。地域差や施設差もあるようです。
この勧告はインフレを受けて毎年改定され、実際の給料は年々上昇しています。

NIHの勧告するポスドクの給与の目安(2022)

もし今年(2022年)にポスドクになるとしたら年給が$54,835、月給が$4,570となり日本円($1=140円計算)でそれぞれ767万6,900円/年63万9,800円/月となります。
円安の影響も大きいですし、そもそも日本より物価が高いとはいえ特に非医師の基礎研究者からは羨ましい金額かもしれません。
※ちなみに日本のポスドクの平均給与は240~300万円/年程度だとか…。

というか大学病院の一般医師の給料より高いですね…。

上記の収入から健康保険・歯科保険・年金が控除されたのち国と州の税金を引かれ残りが手取り給与となります。このあたりの仕組みは日本とあまり変わりありません。

ここまでは家族構成に関係がありませんが、同居家族がいると大きく異なるのは手取りです。
後ほど4.アメリカの医療保険と年金で具体的に説明しますが、家族の同居では歯科保険・医療保険がさらにかかりますので、手取りはさらに減ることになります。

実際の私の家族4人暮らしの大雑把な手取りの収入としては一人暮らしの時より収入がアップしていたのにも関わらず、$500減となり結局手取り給与 $3,100 + 年金積立 $700 程度
でした。

2. アメリカのポスドクの1か月の支出とその項目(4人家族)

海凪
海凪

月ごとの大まかな支出とその項目を以下の表に示します!

合計4,000
家賃1,300
デイケア1,000
食費+生活用品900
光熱通信費130
ガソリン代*200
遊興費400
雑費70
※ガソリン代上昇後(2022頃)の価格です


手取りが$3,100+年金積立$700ですので、差し引き$200/月程度のマイナスになる計算です。もちろん遊興費を減らす、こどもをデイケアにいかせないなどすればプラスにすることはできるかもしれませんが、子どもと妻に日本なら必要のない負担と我慢を強いるのでは留学の意味がありません。
各々の事情次第ですがこのように物価が安い田舎であってもポスドクの給料では家族を満足に養うのは難しいといえます。

都市部では物価を考慮して高めの給与設定にしているところが多いですが、それでも十分とは言えません。より厳しい生活を強いられる可能性が高いです。

※一例を挙げるとボストンの家庭用住居お家賃は$2,500~$4,000、デイケアは$2,000~$3,000程度です。
海凪の居住地と比べるとそれだけで毎月$2,000〜$4,500違うので…。

ただでさえ金銭的には厳しくなる研究留学ですので、なるべくコストカットしたいところです。とはいえ家族との時間や経験も大事にしたいところです。「お金を払いたくないから」とデイケアを利用しない・アクティビティや旅行を一切しないというのではせっかくの家族での研究留学を悲しいものにしてしまいます。

そんな時大切なのは「上手に節約する」ことです。記事「【2022年版】アメリカ研究留学生活における節約術15選」で上手に節約できる方法をご紹介しています。ご参考にしていただければ幸いです。

3. 留学生活立ち上げにかかる費用 (当時のレート1ドル130円換算)

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引っ越しや生活立ち上げにかかる費用も軽視はできません。
実際に海凪が一人の生活に立ち上げにいくらかかったかの概算を開示します。

※これは非都市部の場合ですが、都市部であっても生活の立ち上げに関しては家賃の先払い以外はそれほど大きくは変わらないと思います。しかし住居を決めるときに現地でホテル滞在しつつ家を探す場合にはホテル代が都市によってかなり変わりますので、総額に大きく影響します。

  1. 現地の見学 飛行機往復+現地の宿泊 30万程度 →実際には先方が出してくれた
  2. 渡航費用 15万円
  3. 荷物の配送 15万円 (当時航空便しかないため高額、一部不要なものあり失敗)
  4. 家賃 25万 (当時のレート計算・2ヶ月分先に振り込み)
  5. 車 80万(中古、日本人から個人的に譲ってもらった)
  6. 家具・家電・その他雑貨など 推定10万 ※大部分はやはり中古を譲ってもらった)
  7. VISA関連費用 3万円(パスポートを所持していない方はさらに+1万6千円)

また最初の給与までの期間が1ヶ月(隔離期間+働いてから支払いまでの時間差)があり、その間は一時的に持ち出しとなりました。

一人暮らしでも合計で175万くらいかかった計算になります。

家族の場合はさらにここに以下の経費がかかりました。

  1. 家族の渡航費用 20万円
  2. 家族の荷物の配送 10万円
  3. 家族分のVISA+パスポート関連費用 10万円 (パスポート新規作成2つ)

非常にざっくりとした計算ですが生活基盤ができた後でもなお追加で50万円程度は必要でした。

海凪の場合は日本で引っ越しをしなくてよかったり、支度金を頂いたり、先方の大学が見学の経費を出してくれたりやや幸運な面がありました。
一方で荷物の配送(航空便)車(人からの譲渡の時点で金額交渉や選択には限界があった)などはさらに節約することは難しくありません。家具や雑貨も中古屋で全て購入すれば安くなりますので、150万円くらいが最低限の見積もりでしょうか。

4. アメリカの医療保険と年金(+TIAA)

ありがたいことに、当大学では医療保険とTIAA(日本で言う確定拠出年金のようなもの)に対する雇用主の拠出額が多いです。
他の業種や大学ではどうなっているかはわかりませんが、少なくともうちの大学では健康保険・歯科保険はほぼ9割TIAAは2/3程度拠出してくれます。言い換えると保険は1割負担、年金は自己負担額の3倍がもらえる、という美味しい制度です。

アメリカの医療保険

高い高いと言われるアメリカの保険ですが、海凪一人の間は大学の補助のおかげと病気しにくい成人若年男性ということで月々の支払いは$30程度と格安でした。といってもつまり総額は$300/月なので総額は安くはないんですが…。

しかし家族となるとこの部分の費用が一変します。

積増し分の合計拠出額は

  • パートナーのみで+$900
  • こども(人数問わず)のみで+$800
  • パートナー+こどもだと+$1200 (お得?)

の様に計算されてわが家の場合は合計$1500/月です。そしてなぜか負担額の割合は成人男性のみの場合と大きく異なり$500/月の負担ということで負担額は驚きのほぼ20倍増。
多分大学側(というか実質PI)が9割出すのはあまりに苦しいからでしょう。

TIAA:日本のiDeCoのようなもの

TIAAは前述のように大学の拠出が2倍入る状況で、基本的には投資商品の形で積立されます。アメリカの投資状況は基本的に良好なので年々含み益も増えています。2022年9月現在投資の状況は好ましくありませんが、それでも含み益を保っています。

ただし、大半の人は解約して帰国するのですが、そのときにペナルティと手数料がかかるので額面通り持って帰れるわけではありません。試算では2−3割は差し引かれる計算でした。

一方で家計に余裕がある場合には「TIAAをそのまま残して運用を継続する」という手段もあります。
自分は不確定要素が大きいと考えて解約・引き出す予定ですが、現在の投資状況を鑑みると大いに検討の余地があると思っています。

アメリカの年金

アメリカの年金制度は通常10年間の雇用が受給には必要とされています。

ただし日本の年金制度に加入しておりかつアメリカで1年半以上加入している場合、加入期間の合計が10年以上あると払われる場合もあるようです。その場合はポスドクでも年金受給の可能性は大いにありそうです。

4. アメリカの税金

国税も州税も収入によって税額と割合が決まりますが、州税の金額は当然ですが州によります。海凪がもらっていたポスドクの給料による一年間の納税額は州税:$2,000国税:$6,000計$8,000程度でした。

しかし日本とアメリカはTax Treatyを結んでいますのでJ1-VISAのポスドクであれば2年はほぼ税金がかかりません(1-12月で計算:年の途中で渡米した場合は183日以上滞在した場合に12月31日で1年とカウント)。給与から天引きされているこれらの税金は確定申告(Tax return)をすることで通常全額返却されます。

3年目以降は通常の課税になります。その時子育て世帯は還付を受けることができ、ITINの取得が必要になります。これがまた少しややこしいのですが、米国大使館で旅券書字証明書の発行が必要です。源泉徴収であればこども一人当たり$2,000の税額控除(=還付)が受けられるようです。

確定申告はWebサービスを使用するか、専門家(税理士)にお任せするしかないと思います。全て自身の手作業で行うのは間違っていた場合大きく損をしたり、修正申告に時間を取られる恐れがありますのでお勧めしません。基本的にはサービスの支持通り申告するのがいいとは思います。

本ブログでもJ1ビザによるアメリカ研究留学限定で確定申告を解説しています。分かりやすく解説していますのでご興味のある方はご参照ください。さらに詳しく知りたい方はこちらのページも参考になりましたのでリンクを貼っておきます。

5. アメリカのポスドクの一年の収支と二年間の総費用

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上記の内容から、一年の収支は以下のようになります。

  • 一年間の手取り $ 3,100×12ヶ月
  • 毎月の出費   $ 4,000×12ヶ月
  • 税金還付   $ 12,000 (年間$8,000のTax Return + 子育て還付 $2,000×2 {推定})
  • TIAA付与 $ 8,400 ($700×12ヶ月)

差し引き $9,600のプラス(年金積立含む)ですが、ここに初期費用の出費としての$15,000を引いて、2年間の滞在で計算すると計$4,800$2,400/年のプラスになります。

6. アメリカから日本への帰国時の費用

ここまで計算すると「あれ?プラス?」と少し嬉しくなりますが、そこからさらに考慮しなければならないのは帰国時の費用とTIAAを帰国時に引き出した時のコストです。

まだ実際に帰国していないので正確な算出は難しいですが、移動費・輸送費はほぼ同額かかりますし、生活の再セットアップが必要なご家庭がほとんどだと思いますので、同額〜2/3程度は見込んでおく必要があるでしょう。

ざっくり$10,000の帰国費用と3割程度の年金減額(こちらもざっくり$5,000)と計算すると2年間の総計でマイナス$10,000となります。

しかもこれはあくまでポスドク給料+田舎での家族同居の生活というコストがかからない設定ですので留学する各地域の物価・人件費を考慮する必要があります。さらにこの計算には多くの人が楽しむアメリカ国内旅行の費用は含んでいません。

海凪
海凪

…う〜ん、やはり留学は贅沢品ですね。

まとめ:いくら条件が良くても家族連れでは赤字の覚悟が必要

good-luck

田舎でポスドクの給与があったとしても、生活水準を極端に落とさない限りは留学期間内の収入内でのやりくりはほぼ無理ゲーです。一方で貯金や奨学金での留学(=低所得・無所得)の場合は各種支援を受けられる可能性が高いので、ここまでの出費にはならないかもしれません。大学や公的機関に積極的に相談・主張しましょう!

とはいえ家賃や食費はかかりますのでやはりかなり貯金を削られることになります。ぜひそれに備えて今日この瞬間から家計の把握・見直しをすることをお勧めいたします。

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