多くの留学希望の医師・医学生が留学のタイミングについて悩んでいます。しかし、留学の適切な時期は個々の経歴や目的によって異なるため一概には言えません。
この記事では留学の最適な時期を医師・医学生の経歴や目的別にわかりやすく解説しています。最後まで読めば、ご自身に最適な留学計画を立てるヒントが得られます。留学のタイミングを見極め、理想の留学計画を実現しましょう。
医師・医学生の海外留学の種類と目的を整理する

まずは医師・医学生の海外留学の種類と目的を分類してみましょう。様々な分類方法があると思いますが、目的別に研究・臨床・その他に分類しました。
研究留学 | 臨床留学 | |
---|---|---|
業務内容 | 研究 | 臨床(フェロー以上の場合研究日もあり) |
勤務時間 | 週5日・フレキシブル | 原則週5日・オンコールは休日含め1週間連続 |
給料 (日本との比較) | 無給〜安い | 一般的に高い(トレーニング期間は安い) |
年齢の壁 | 概ね40歳まで | 概ね30-35歳まで |
資格試験 | 不要(稀にTOEFL/IELTS) | USMLE(実績があれば例外あり) |
英語力 | 最小限でも大丈夫 | 求められるレベルが高い (TOEFL-iBT 100点?) |
博士号 | ないと厳しい | 不要(コースによってはアドバンテージあり) |
コネクション | ないと実現に努力必要 | ないと希望する場所には行けない可能性大 |
キャリアの 将来性 | 教授選以外には あまり影響しない | 競争を勝ち抜けば待遇はどんどん良くなる |
研究を目的とした留学(非臨床留学)

本ブログはここをメインターゲットとしたブログです!
海凪自身はポスドク留学でしたが、それだけが研究留学ではありません。目的や形態によって以下のように多くの選択肢があります。
- PhD留学
- MPH留学
- ポスドク留学
- ポスドク雇用
- 無給留学
- 奨学金による留学
- 交換留学(技術交換・共同研究)
それぞれの留学にはそれぞれの適切な時期があります。
PhD留学

国内ではなく海外で博士号を取得する留学です。
PhD留学は、医学や生物学などの分野で深い専門知識と研究技術を習得するためのものです。通常、博士課程のプログラムは3年から5年程度を要し、自分の研究テーマに基づいて独立した研究を進めます。国際的に優秀・有名な研究者との繋がりを作ることもでき、研究者として独り立ちするときに強い味方になってくれる留学といえます。ただし金銭的に余裕のない時期の留学となりやすく、金策には苦労することになるかもしれません。
日本とアメリカを始めたとした先進国諸外国の大学院の大きな違いの一つが経済的な部分です。
日本では大学院生は授業料を納め、給与なし(もしくは奨学金)で研究しますが、アメリカの大学院では給与が支給されます。ポスドクに比較すれば少額ですが、概ね$2,000~$3,000/月程度と言われており、金銭的負担は想像するよりは少なくて済みます。
とはいえ物価は日本より高いため、家族の生活をそれだけで賄えるとは考えない方が良いでしょう。
MPH留学

公衆衛生・疫学についての資格取得と研究方法を学ぶ留学です。
MPH(公衆衛生学修士)留学は、公衆衛生の専門知識を深めるために海外の大学で学ぶプログラムです。この留学は、疾病予防、健康増進、環境保健などの分野で専門的なスキルを身に付けることが目的で、一般的に1年から2年のコースが設けられています。MPHを取得することで、政策立案、研究、または地域社会での健康改善活動に積極的に関わることができるようになります。留学先としては、米国や英国の大学が人気ですが、各国に特有の公衆衛生の課題に触れることができるため、学ぶ場所によって得られる知見には大きな違いがあります。
MPHは臨床研究をしたい医師には有力な選択肢です。最近は国内のMPHコースも広がりを見せており、1年間でMPHを取得することができる医師向けのコースも用意されているので効率を求めるのであれば国内でのMPH取得がおすすめです。
しかし海外でのつながりを作ることや、海外の有名なMPHコースを取得して技術やノウハウを国内に持ち帰りたいのであれば十分その価値はあリます。特に国際的な疫学調査に関わる機会は海外のMPHの方が一般的には多いと言えます。
ポスドク留学(有給)

海凪はこれでした!
ポスドク留学は、PhD取得後に更なる研究経験を積むために行われます。この期間は、新たな研究スキルの習得や独立した研究者としてのキャリアを築くための重要な段階です。ポスドクは一時的なポジションであり、通常は2年から3年、長くても5年程度で次のキャリアステップへと進むことが期待されています。留学中は、研究成果を国際的な学会で発表する機会が多く、その分野での視認性と影響力を高めることができます。
ポスドク留学(奨学金)

医師の留学として最もポピュラーです!
奨学金による留学は、学費や生活費の一部または全部が奨学金で賄われる留学形式です。多くの場合、研究実績(≒論文数、論文のIF)や研究計画申請書の優秀さが奨学金獲得の決め手となります。奨学金プログラムには、政府や私立基金、大学から提供されるものがあります。奨学金は限られた枠が複数あり、それぞれで競争が行われるため1個獲得できたら大したものです。そのため申請にあたっては入念な準備と計画が重要になります。
ポスドク留学(無給/外部給)

1年目外部給・2年目奨学金などもしばしばありますね
無給留学は、給与や奨学金のサポートなしに留学する形式です。このタイプの留学は自己資金でカバーする必要があり、計画には十分な資金計画が必要とされます。無給留学生は、学費や生活費を自力で工面しなければならないため、アルバイトやフリーランスの仕事をしながら学業に励むケースが多いです。
別のパターンとして大学のポストに1年残してもらいながら留学するパターンがあります。医局の許可が必要なことに加えて1年後の資金は自分自身で用意しなければならないのが大変ですが、最初から奨学金を獲得することに比べればかなりハードルは下がります。
交換留学(技術提供・共同研究)
交換留学は、異なる国の教育機関同士で学生や研究者が一定期間交換されるプログラムです。この形式では、技術交換や共同研究が行われ、参加者は新しい技術や研究方法を学びながら国際的な視野を広げることができます。通常、交換留学は両国の大学が協定を結んで実施されるため、留学生は受け入れ大学の学費免除などの恩恵を受けることが多いです。技術交換や共同研究は、グローバルな問題解決に向けた重要なステップとなり得ます。
すでにあるレールに乗ることができるケースが多く、実現にはそれほど労力を要しないケースも少なくありません。反面研究のテーマを自分で選ぶことは困難なので一長一短の側面は否めません。
臨床を目的とした留学
一口で言ってしまえば「臨床留学」となりますが、ここにも複数の目的と多数の選択肢があります。
- 海外の医学部(Medical School)留学
- レジデント留学
- 技術習得のための留学
- 臨床研究のための留学
海外で臨床医として働くための臨床留学
医学部留学
大学生のうちに現地の医学部(メディカルスクール)に留学する方法です。
海外で働くことを目標とする場合、実現すれば最も目標に近い留学と言えます。留学生は基本的な医学知識の習得だけでなく、異文化の中での患者対応や医療倫理についても学びます。米国のような国では、医学部留学に先立ち、事前に大学での事前教育(Pre-medical course)が求められることが多いです。また、留学生は入学試験(MCATなど)の受験が必要となります。この留学を通じて、国際的な視野を持つ医師としてのキャリアを築くための基盤を形成します。
レジデント留学
レジデント留学は、医師免許を取得した直後、日本での初期臨床研修医としての留学です。
レジデントプログラムは通常、厳格な選考を経て選ばれ、特に米国や欧州では高度な医療技術と臨床教育が提供されます。留学中は、実践的な医療技術だけでなく、チーム医療や患者管理のスキルも磨かれ、グローバルな医療環境で活躍するための重要なステップとなります。
フェロー留学
フェロー留学では、一定期間特定の医療機関で研修を受け、専門医としての資格を得るための教育が行われます。専門医として必要な臨床経験を積むために行われます。
人手不足な地域や診療科では留学のハードルがグッと下がる場合があります。求人を探すのは大変なの人づてで話をもらうのでなければ労力をかける必要があります。また留学後の次のステップとしてフェローからスタッフになるのは簡単なことではないので相当の努力と現地でうまく渡り歩く能力が試されます。
自身の技術習得のための臨床留学
技術習得のための留学は、特定の医療技術や手技を学ぶ目的で行われます。このタイプの留学は、最新の医療機器の操作や特定の治療法に関する深い知識と技術を習得することを目的としています。例えば、最新の画像診断技術やロボット手術の技術をマスターするために、先進国の医療機関で短期間のトレーニングを受けることがあります。留学を通じて、参加者は実際の臨床現場での体験を積み、自国に帰国後はその技術を活用して患者治療に当たることが期待されます。
臨床研究のための留学
臨床研究のための留学は、医学研究の国際的なコラボレーションや新しい医療技術・治療法の開発に貢献するために行われます。この留学では、研究デザインの方法学からデータ収集、解析技術まで、広範囲にわたる研究スキルが求められます。留学生は、世界的に有名な研究機関で実践的な研究活動に参加し、その結果を国際的な学術誌に発表することが多いです。また、このタイプの留学は、新しい医療技術の試験的導入や臨床試験に参加する機会も提供します。
その他の留学
- 語学留学
- 医療施設訪問・見学
純粋に語学のための留学や明確な目的ではなく病院/施設見学/学生実習を主目的とした留学がここに当てはまるでしょうか。すぐに真の目的には結びつかないかもしれませんが、キャリアアップに役立つポテンシャルを占めています。
語学留学
医師の語学留学は、医療専門用語の習得と共に、国際的なコミュニケーション能力を高めるために行われます。この留学は、英語圏やその他の言語圏での短期〜長期のプログラムを含むことがあり、医師が異文化の中で効果的にコミュニケーションを取り、国際的な医療環境で働くための準備を目的としています。特に英語は国際的な医療コミュニティで広く使用されているため、英語力を強化することは、海外の学会発表や研究論文の執筆、国際的な医療協力において非常に重要です。また、語学留学では現地の医療機関との交流も促され、現地の医療事情を学ぶ機会も得られます。
医療施設訪問・見学
医師の現場見学は、他国の医療現場を短期間訪れて学ぶ留学です。この形式は特定の医療技術や運営方法を直接見て学び、自国・自施設の組織づくりや実際の運用、診療に応用するための知見を得ることを目的としています。例えば、最先端の手術技術や病院管理システム、患者ケアのプロトコルなど、特定の分野での知識を深めることができます。短期留学は通常、数週間から数ヶ月程度で行われます。
現場見学は、実際の手術の見学、病棟での医師との対話、スタッフミーティングへの参加など、実際の医療現場での体験を通じて行われます。
【タイミング別】医師・医学生の留学

留学する最適なタイミングは、経歴や目的によって異なります。自分に合った留学の選択肢を知り、自分の生活やキャリアプランに合った時期を考慮して、有意義な留学を計画しましょう。
研究を目的とした留学のタイミング
大学在学中の留学は、学生生活やキャリア設計に大きな影響を与えます。学年や学部・専攻ごとのメリットを理解した留学計画が重要です。
留学の最適なタイミングは、留学の種類と目的によって異なります。それぞれの特性を理解し留学のタイミングを逃さないようおにしましょう。
各形式の研究留学に最適なタイミングは以下のとおりです。
研究留学の形式 | 適切なタイミング | 説明 |
PhD留学 | 医師1~8年目 | 医学部卒業後・初期研修後・後期研修後 |
MPH留学 | 医師3~10年目 | 医学部卒業後早めが○ |
ポスドク留学 | 医師6~15年目 | 大学院卒業が必要・40歳以上は厳しい |
交換留学 | 必要なときいつでも | 遅いと今のポストを留守にしにくい |
技術交流・施設見学 | 必要なときいつでも | 遅いと今のポストを留守にしにくい |
目的や形式によって研究留学の最適なタイミングは異なります。ただし「全く同じ留学」は存在しないのでタイミングがずれていたとしてもあまり気にする必要はありません。

ポスドクにもある程度のリミット(40歳前後)があるので注意です!
臨床を目的とした留学のタイミング
臨床留学の形式 | 適切なタイミング | 説明 |
医学部留学 | 大学卒業〜社会人3年程度 | 一般の大学を出ていることが条件 |
レジデント留学 | 初期研修後〜後期研修後 | 準備状況やUSMLEの取得時期が影響 |
フェロー留学 | 後期研修後~医師10年目程度 | 場所を選べば広く実現可能 |
臨床研究留学 | 大学院卒業後~医師15年目程度 | ツテが必要 |
臨床留学の方がよりタイムスパンに限りがあり、タイミングを早めに見据えて行動する必要があります。また能力も研究留学よりもさらに要求される印象です。望む場所や診療科に行くためにはコネもしっかり使う必要があります。
その他の留学のタイミング
その他の留学の形式 | 適切なタイミング | 説明 |
語学留学 | 学生の間のみ | 英語は他の留学でも学習可能 |
医療施設見学留学 | 学生〜いつでも | 目的があればいつでも意義あり |
その他の留学では語学留学は基本的に学生の間しかタイミングはありません。逆にそれ以降は留学の主目的のついでに英語を学習することになります。
医療施設見学留学はどのレベルのキャリアでも必要になり得ます。目的がしっかりしていればいつでも実現させるべきとも言える留学です。
まとめ

留学を計画する際には、自分の年齢や目的に応じた最適なタイミングの見極めが重要です。
留学の目的や留学の形態によって最適な時期は異なります。自分の状況や目的に合わせた留学計画が大切です。入念な留学計画を行えば、より満足のいく留学経験を得られます。
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