研究留学は多くの時間とお金をつぎ込むとても大きな決断です。研究留学を検討している方も、準備をしている方も、「この留学が失敗しないか」と心配でしょうし、留学中に「この留学失敗だったかも?」と不安になっている方もおられるでしょう。
海凪は「留学には失敗はない派」ですが、留学の価値観や成功・失敗の定義はヒトそれぞれですよね?
この記事では3年間アメリカに研究留学をしていた海凪が、医師が「研究留学に失敗した」と感じがちな3つの主な理由と20の対処方法について解説しています。皆様のご参考になれば幸いです。
A. 金銭的に苦しくなってしまった
一番頭を悩ませる可能性が高いのが家計だと思います。
医師の研究留学においては仮にポスドクの給料や奨学金を得たとしても収入は激減します。さらに支出は、特にご家族と留学される場合には往復や引越しの経費がかなりかさみます。トータルで年間数百万円単位で貯金が減ることも想定しなければなりません。
借金するまではいかないとしても「このままで大丈夫かな…」「やっぱり留学なんてするんじゃなかった…」となってしまうのではせっかく手間と時間をかけた研究留学がもったいないです。
留学中の対処
留学中は以下の対処方法が考えられます。
1. 留学先施設・公的機関への相談
「お金がない」ことを恥じる必要も隠す必要もありません。それぞれの国や地域にはそれぞれの経済支援策があります。どのような人が何の支援を受けられるかは国・地域により大きな違いがありますのできちんと相談する必要があります。自力で調べるのは労力・時間を考えても全くおすすめできません。
海凪自身の経験はありませんが、知り合いや伝聞での体験談で以下のような実例があります。
2. 日本で使っている有料サービスの見直し
留学中にあまり使っていない日本のサブスクリプションサービスはありませんか?
留学前に解約し忘れたり、使うと思って継続していたサービスが以外と使わなかったりと無駄に支出を垂れ流しているケースも少なくありません。
今のサービスはほとんどネット経由のみで解約ができます。無駄なサブスクリプションサービスは一刻も早く契約解除しましょう!
家計管理には「マネーフォワード ME」がお勧めです。海外にいても導入可能なので一考の余地有りありです。
3. 海外生活の節約強化
せっかく海外に留学できたのですから、金銭を優先しすぎて留学生活・家族との自由な時間を楽しまない、家族に有意義な経験をさせないのは本末転倒です。
しかし締めなければいけないところは締めましょう。日本の生活とは頭を切り替える必要があります。
記事「誰でも使えるアメリカ留学生活の節約術15選+αを解説!」で紹介している内容はアメリカ国内であればだれでもできる方法ばかりですし、他の国でも参考になる部分はあると思います。是非お読みください。
4. 追加の海外留学助成金に応募する
追加の海外留学助成金への応募もしばらく(1年以上)留学生活が続くのであれば検討すべきです。特に少額(とは言え10~100万円程度と大変ありがたい額)の助成金であれば給与や現在の奨学金との重複受給が可能なものも少なくありません。是非下記記事「日本人が海外医学研究留学するための奨学金42選を一覧で比較!」を参考にしてみてください。
5. 現地で投資する
海外居住(特に転出届を出す場合)には原則的に日本の証券会社での投資は行えないことになっています(行間を読むと…)。となると次に考えるのは「現地での投資」です。実は日本の投資は非常に税金が高い(例外を除き一律約20%)ですが、アメリカでは収入によりますが最大15%で、当然ポスドクの給料では最高税額には到底達しません。日本で投資をしていた方が目を向けるのは必然ともいえるでしょう。
しかし問題は別のリスクが存在することです。
- 滞在中のみの短期/中期投資ではリスクが高い
- 滞在後も証券口座を維持/投資を継続するには証券会社の選定が必要
- 選定しても将来的に口座が日本から維持不可能/凍結されるリスク
- もし維持できたとしてもアメリカの確定申告を毎年する必要がある
これらのリスクを受け入れる必要があります。特に滞在中の投資だけ、となると損失を被る可能性もあり、むしろ金銭的に困窮する可能性すらあります。
海凪自身は実際にやって「失敗した」と考えているのであまりオススメはしません…
6. 日本の遠隔医療相談サービス・他の副業で働く
これは最後の手段です。ビザの種類・居住者/非居住者・確定申告の問題などが複雑に絡んでくるので自己責任でお願いいたします。というわけで具体的な方法も示さないことにしました。ただ抜け道は色々あることだけはお伝えしておきます。
一方でJ-2で渡米したパートナーの方が正式な手続きをしてアメリカで就労するのは問題ありません。手続きには時間がかかりますので、パートナーにその気がある場合には入国したら早めの段階で予め手続きをされることをお勧めします。
留学から帰国後の対処
医師の場合、留学から帰国後に「収入を増やす」ことは他職種に比べれば比較的容易に可能です。キャリアとの兼ね合いや職場環境によりますが、帰国後であれば勤務先を変更する、アルバイトを多めに入れるなどの方法が最も有力でしょう。
日本だからできる支出の見直し・投資による収入の補填など財政状況を改善する手段ははたくさんあります。
留学後にいくらでもリカバーは可能です!
7. アルバイト
所属先やポストによっては不可能ですが、手っ取り早いのが自分でバイトを探すことです。大学の医局に所属していれば多めに回してもらうことが可能かもしれません。
ツテがない方は医師向けのアルバイト紹介サイトで仲介してもらうこともできます。スポット契約もありますし、非常勤定期もあります。登録自体は無料なのであらかじめ登録しておくことでいざという時スムーズにアルバイト先を探すことができます。
代表的なアルバイト紹介サイトを掲載しておきますので参考にしてみてください!
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8. 日本国内の支出の見直し
海外で解除できなかった支出の見直しも是非行ってください。以下のような支出がすぐに見直せる・見直すべきと考えられています。
特に保険に関しては改善の余地が大きい方がたくさんいらっしゃると思っています。以下の動画はやや古いものですが今まで保険について深く考えたり調べたりしたことのない方には非常に参考になりますし、今でも全く色あせない考え方です。是非参考にしてみてください。
9. 帰国後の投資
あくまで自己責任ですが、リスクが低く成功確率の高い投資方法はあります。NISA、iDeCoなどの制度を今まで利用してこなかった方は大いに検討の余地があります。特に2024年から始まる新型NISAは将来設計を考える方はほぼ必須の制度です。ぜひ利用しましょう。
B. キャリアの大幅な変更を迫られてしまった
研究留学は人生の大きな体験であるとともに節目です。年齢も30半ば〜40歳前後に達する方がほとんどでキャリアに思いを馳せる時間も増えることと思います。医局や所属先から離れることもきっかけの1つになります。
価値観が変わってしまった
これは必ずしも「失敗」とはいえませんが、当初思い描いていたものと違う価値観が芽生えた場合、そう捉える可能性もありますので挙げておきます。
- 研究をこのまま突き詰めて継続したい
- 研究はもうしたくない
- 家族ともっと一緒に過ごしたい
- さらにキャリアを追求したくなった
このように価値観が変わることは大いにあり得ます。その価値観が今後の予定と合致しない場合、別の職場やキャリアを模索することになります。
留学前の医局・職場に復帰できなくなった
下記のような様々な理由から留学前に所属していた医局/職場に戻れなくなった話を耳にします。
- 医局からの指示ではない留学をした
- 留学の期間を自己判断で延長した
- 留学期間中に教授が交代した
- 留学中の医局人事の大幅な変更があった
この場合も自力で職場を見つけなければなりません。
研究がうまくいかずアカデミアでの出世が望めなくなった時
もしあなたが医局の教授などアカデミアの世界での出世を目指していた場合、研究留学の成果がアドバンテージになることを期待して留学したはずです。
しかし研究も留学も能力があればいつでも上手くいく訳ではありません。たまたま留学先での研究がうまくいかなかった場合、出世をあきらめる方もいらっしゃるでしょう。
その後の頑張りで挽回することは不可能ではありませんし、第一希望ではなくても他の医局でポストに就くことは可能かもしれません。ただそれは本人のモチベーション次第です。研究留学に賭けていた方の場合にはやはり他の就職先を模索する必要があるかもしれません。
対処:予定されていた復帰先とは別の就職先を探す
キャリアの変更方法には大まかに以下の3つの方法が考えられます。
10. 知り合いのつてをたどり再就職
一番有力なのは友人・知り合いなどのツテをたどることです。ある知り合いは留学先で知り合って仲良くなった日本人ドクターの復帰先の病院へ、しかも専門科も変更して就職しました。
このような選択はよほどお互いに信頼のおける相手だからこそ成り立つ話です。しかしもし想定とあまりに違った場合は後悔するだけでなくその紹介相手との関係も崩れてしまいますので他の情報や就職先との比較検討はするべきでしょう。
11.求人情報・公募を自力で探し応募
2つ目の方法はオープンな公募情報やクローズドな募集を探すことです。学会に合わせて帰国して交流を深めるなどして研究に専念できる環境を手に入れた方を知っています。
公募は検索して見つけるか人から教えてもらうかになりますが、それ以外にもコミュニティーやメーリングリストで出回る情報もありますので早めに参加しておくと良い話を逃さずに済みます。
12. 医師専門の転職エージェントを利用して再就職
3つ目の方法は医師専門の転職エージェントを利用することです。
上記2つに比べてはるかに広い範囲・条件で再就職先を探すことができます。
再就職先の情報も客観的に得られることでしょう。登録自体は無料なのであらかじめ登録しておくことでいざという時スムーズに就職先を探すことができます。
代表的な医師転職サイトを紹介しておきますので参考にしてみてください!
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C. 体調を崩してしまった
留学経験者には「体調を崩した」「病気になってしまった」という体験談が意外と多いです。
そもそも医師の研究留学は初期研修〜後期研修〜大学院を経てすることが多いので、留学中の年齢が30代半ば〜後半が大半のため年齢的に初めて体調不良が出やすい時期であることが大きいです。その上慣れない食事・いつもと違った生活サイクル・海外生活をエンジョイしすぎる(?)などの生活の変化も大きく寄与していると思います。
この手の対処はすぐ行う必要があります。「留学が終わるまで」と思って耐えるのは全くおすすめできません。さらに深刻になってしまう可能性が高いからです。
働きすぎて身体・精神を病んだ
今現在欧米ではワークライフバランスについてかなり気をつかっていますのでそもそも過重労働を強いるPIはほとんどいないと思いますが、無言の圧力はあるでしょう。
またその人の気質としてそもそもワーカーホリックな一面がある、または念願の研究留学ということで張り切りすぎている場合もあると思います。
13. 適切な休みを取る
働きすぎの直接の原因はなんであれ、「適切な休みをとる」以外の解決策はありません。時間外や土日の労働は適切にコントロールしましょう。欧米は労働時間についてはかなり気を使っているはずです。
Paid leave(有給休暇)、Sick leave(病気休暇)も積極的に取りましょう。どちらも証明書や届け出は必要ありません。海凪自身は幸い健康に過ごせているのでSick leaveは2年間で1.5日しかとっていませんが、同じラボのメンバーは平均で10日以上とっているはずです(カウントしていないので印象ですが)。
有給休暇についての注意点としては施設やポジションによって年次繰越ができないことがあります。海凪は初年度に全く有給をとっておらず、繰越ができずにとても後悔しました。
海凪の上司はとても真面目なのであまり融通を効かせてくれませんでした…
御自身が奨学金で留学されている場合はもっと自由かもしれません。このあたりのことは研究室によって差が激しい点だと思いますが、何れにせよ休むことは労働者の権利ですのでしっかり主張していきましょう。
不摂生(栄養面・運動面)で体調を崩した
これは一人で留学された場合に特にありがちです。
普段自炊をされない方の場合、海外ではさらにハードルが高くなります。調理器具も材料も予め揃えなくてはなりませんし、その調達のハードルは住み馴れた日本よりもはるかに高いです。
かといって出来合いのものは全般的に日本のものより野菜・タンパク質が少なめで糖質が多めです。栄養バランスの良いものもなくはありませんが基本的に高額です。
また、海外では日本食が不足します。これは地域による差がかなり大きいですが、とはいえ日本食スーパーがあったとしても出来合いのものはやはり高額です。
それから研究生活は基本的には医師の生活よりさらに身体活動レベルが下がります。
生活リズムは安定しますが定期的な運動を心がけないと運動器系に問題を抱えてしまいがちです。
14. 積極的に自炊する
上記の背景を考えるとやはりある程度の自炊は必要になってきます。
記事「アメリカ現地で揃えるべき家電4選(調理家電編)」をお読みいただければ自炊のハードルはだいぶ下がると思います。是非参考にしてみてください。
15. 定期的な運動をする
一番お金がかからず脳にも身体にもいいのは「ウォーキング・ジョギング」です。生活リズムも安定していることが多い研究生活ですので、生活のルーチンとして一日のスケジュールに組み込んでしまうのがオススメです。それから治安・距離などの環境に依存しますが通勤を徒歩/自転車で行うのも良い方法です。
また地域によっては暑すぎる・寒すぎるために外での運動が難しい季節もあると思います。
その場合Nintendo Switchのリングフィットアドベンチャーがかなりオススメです。
室内で騒音もそれほど気にすることなく定期的な運動ができますし、1日10分行うだけでも筋肉もつきますし運動強度もそれで十分だと思います。
人間関係やアカデミックハラスメントで精神に不調をきたした
PI/同僚と良い関係が築けない・英語で上手くコミュニケーションが取れないと言った問題はしばしば経験するでしょう。留学体験記などを読むとあまりその辺のことについては書かれていないことが多いですが、全員が全く悩んでいないというのはあり得ないと思っています。少なくとも海凪は悩みました。
特にPIとの関係性は重要です。喧嘩別れ・断絶するような状況は最大限避けなければなりません。しかし当たり外れや相性もあるので全てを自分でコントロールできるわけではありません。特に論文についてのいざこざは問題になりやすいです。
16. 大学の担当機関に相談する
この手の問題はまずはPI/同僚に相談すべきです。しかし相談しても全く解決しない場合やそもそもPI自身に大きな問題があるときには関係部署に相談してください。最終的にはハラスメント担当部署に相談することになりますが、留学生の場合にはInternational Studentの担当部署も相談先として機能します。少しためらわれる方はそちらへの相談をおすすめします。
大学はこの辺りのことにはかなり敏感なので、いずれの部署でもしっかり対応してくれるはずです。有事の際には「相談歴がある」ことはとても重要になってきます。「事を荒立てたくない」と考えがちなのは日本人の特性とも言われていますが、我慢していてもいいことはありませんので解決が見えないときには積極的に相談しましょう。
研究生活がつまらなくてやる気が出なくなってしまった
じゃあなんで留学したの?と言われると辛いところですが、想定外のこともあるでしょう。
経験者であればわかると思いますが研究がうまくいかない時の停滞感はすごいです。臨床であれば時間が解決してくれることもありますが、研究は待つだけ・繰り返すだけではどうにもならないことが多いです。下記のような状況があると研究のモチベーションが上がらないかもしれません。
そんな時の対処方法は以下のものが考えられます。
17. 大学外のコミュニティに参加する
都市部でも田舎でも地域のコミュニティはたくさん存在します。課外活動をすることで現地の友人も増えますし確実に研究のストレス発散につながるでしょう。コミュニティがストレス源になる場合もあるとは思いますが、その場合はそっと離れればいいだけなのでトライする価値は十分にあります。
探し方はいろいろですが現地の知り合いの紹介が気持ち的には入りやすいですが、望むコミュニティとは限りません。地域名+communityや地域名+趣味などで検索するとそれだけでもたくさん見つかります。また海凪の所属する大学は学外活動の勧誘のメーリスが回ってきたりするのでそれに参加するのもひとつの方法です。
18. 時間外は子育てや趣味に没頭する
割り切って勤務外の時間を楽しむのもアリです。むしろ楽しんでいるうちに突破口が開ける場合もあるあるです。
以下の記事群が参考になるかもしれません。
19. 書籍を読んで状況を打破する
上記の対処でリフレッシュができたなら書籍を読むことが研究を進める突破口になるかもしれません。
モチベーションが保てない時は「研究留学したくなる&研究留学中のモチベーションに役立つ参考書籍5選」で紹介した書籍を読んでみて下さい。研究のやる気が出るはずです。
モチベーションがあるのに研究がうまく進んでいないときは袋小路に迷い込んでいる可能性があります。「研究留学を成功に導く参考書籍5選」で紹介している書籍を読むことで問題点を突破する具体的な情報が手に入るかもしれませんよ。
最終手段:予定を切り上げて帰国する
ラスト20番目の手段は「帰国」です。医師はこれが使えます。
急な帰国であっても人手が不足しがちなこの業界、ほとんどの地域で就職先は見つかるはずです。医師として働けばお金の問題はすぐ解決しますし、健康の問題も住み馴れた日本であれば立て直しやすいです。研究や人間関係の悩みなんて吹き飛びます。
逆にそう考えることで「せっかくだからもう少し工夫して頑張ってみようか」とも思えるものです。
ぜひ抱え込みすぎず「いつでも帰れるんだから」と気楽に考えてみましょう!
まとめ:失敗を成功に変えるには発想の転換が大事!
失敗は誰にでもあるように、どんな留学にも失敗だと思う部分はあります。
失敗の原因を分析して対処することで知識や経験を蓄積し、失敗を今後の人生に活かしていくことが大事です。
この記事が皆様の研究留学のお役に立つことができれば幸いです!
>> 「研究留学に対する10の不安」を解消する方法|不安・失敗のほとんどは成功の種
>> 海外医学研究留学の成功と失敗の定義を考える
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